2013年3月15日金曜日

第18回勉強会(2013年3月9日)報告

「図書館“展示”の歴史について」
日時:2013年3月9日(土) 14:00-17:00
会場:京都商工会議所 第一会議室
発表者:長尾 宗典氏

 当日の出席者によるtwitter上のつぶやきをまとめたものはこちら 

はじめに

 今月で関西文脈の会が発足して3周年。本報告では図書館展示の「歴史的意味」について検討し、その現在の位置付けを踏まえた上で、今後の展望を考える。

1.「展示」とは何か-議論の前提として

 NDLでは東京本館に展示企画係を常設しているが、関西館小展示など多くの展示は委員会組織によるプロジェクト方式で企画・実施される。委員会方式は機動力がある代わりに、本務とのバランスの取り方が難しい。しかし、図書館では展示のための常設部署を置かないのはよくあること。
 展示を観る人(利用者)の意識はどうかと考えた場合、博物館・美術館と図書館を区別しないはず。博物館法では公立博物館の入館料等は原則無料としており、「無料」もあまり理由にならない。逆に近年、博物館では撮影可などの新しい試みも行われている。こうした状況を考えると、レベルの低い展示は図書館のイメージダウンになる、といえる。
 翻って博物館史に目を向け、日本の博物館の系譜を概観する。明治期において、日本の博物館には共進会・古社寺保護・教育博物館など複数の源流が存在した。戦後、明治百年事業を契機として博物館の数は大きく増加する。そして博物館の役割として画期となったのが、梅棹忠夫の「博情館」構想である。今日、梅棹の構想を振り返ると、その「博物館」は「図書館」にも置き換え可能であり、この点に図書館と博物館の近縁性を見ることもできる。
 それでは「展示」とは何か。用語としては、古くは「展覧」「陳列」。パリ万博が転回点となり、第二次大戦前夜には「物の観方」を提示する方へ傾いてゆく。

2.図書館″展示″の歴史

図書館学者の意見としては、展示(陳列)について肯定的なものが多い。法規的基礎の問題として考えた場合、改正図書館令(1933)において「附帯施設」条項が追加されたことが一つの画期といえる。この条項は、松尾友雄と中田邦造によるいわゆる「附帯施設論争」で知られるが、その中で「図書館は図書館として発達せしめよ」と論じた中田も、「展示」は図書館業務と考えていた形跡がみられる。そして戦後の図書館法(1950)で、図書館奉仕としての「展示」が位置づけられるに至る。
 戦前~戦後の主な図書館「展示」から指摘できるいくつかの傾向としては、「陳列」から「主題展示」への変遷、会期の長期化、展示資料点数の漸減、展示対象の多様化、が挙げられる。

3.図書館“展示”の意味とは?

 これまでの図書館における展示には貴重書重視の傾向があったが、実際には必ずしも古典籍に限らないニーズがある。また古典籍は資料管理などの点で展示する際のハードルが高く、企画によっては単なる「陳列」になってしまうこともありうる。「とりあえず古典籍」という展示はそろそろ飽きられる。観た人に強い印象を残せるのがいい展示であり、規模はあまりリンクしなくなりつつある。
 職員のスキルアップのみを目標にしていいのか、という点も問題。図書館には資料についての「調査研究」義務はない。また図書館の展示は図書館奉仕であることから、職員以上に来館者の認識を高めることが重要になる。外部有識者に監修を依頼するのも一手ではないか。
 展示を広報戦略としてとらえた場合、どのレベルでの理解を求めるのか。Accountabilityを展示する、というのは一つのスタンス。レファレンスと絡めるのもありうる。
また、「展示」を見てもらう前提として、会場に来てもらわねばならない。遠隔サービスの拠点を謳う関西館で一生懸命「展示」する、というのは矛盾していないか。「集客」という指標の呪縛がある。この点をフォローするには、来場者へのお土産を充実させたり、巡回展示を企画するなど、その場にとどまらない工夫が必要。

おわりに-これからの図書館“展示”は何をするのか?

「図書館の展示を企画すること」は「新たな文脈を作ること」。


主な質疑は以下のとおり

・博物館でしているのは「展示のための研究」ではない。研究しているから展示をする。
 図書館で外部から人を呼んでまで展示をする意味は何か。
   →少なくともNDL、大学図書館は意味があるはず。
    図書館も諸館種ある中で、「展示」の在り方・意味を一律に規定する
    のは難しい。が、少なくとも学術情報支援を目的としている図書館は、
    職員がもっと資料研究すべき。

・「博物館」とは何か、という合意は博物館関係者の間でも取れていない
 =議論の基盤がない。では「図書館」はどうか?
   →「文化資源を見せる」ということから機能を再定義する、のもありでは
    ないか。

・図書館展示の特徴として、「無料」であることがよく挙げられる。
 しかしあまり認識されていないが、展示にかけるコストの問題がある。
   →コストを抑えるためにもコンテンツの蓄積が必要
    (使いまわせるものは使いまわす)

・常設の展示スペースを設けてはどうか。
   →情報提供目的。(@滋賀県の図書館)
    現実的には利用者の導線設定が課題だが、これは提供側の意識。
    利用者側からみるとどうか?

・誰と、どういう関係を結びたいか、によって展示コンセプトは決まるはず
   →一例としてはベタな資料をうまく展示することで、日頃そういった
    資料に触れる機会のない人に働きかけるアプローチが考えられる。
   →「広報としての展示」と考えるなら、しっかりマーケティングすべき。
  また単発で終わらせてはいけない。

・デジタルの展示について。正直見にくい。
 ←多くのデジタルコンテンツの主たる利点は検索できることなので、
  見やすさは第一優先ではないのでは?

・デジタル展示先行型としては、NDLの「本の万華鏡」がある。
 コストを下げる&ロングテールを狙う。
 近代デジタルライブラリーのPRという目的も。
  ※著作権が存続している資料は著作権の問題がネックになり、古い資料に
   流れがち。(現物の展示はできるが、ネットに上げられない)
 →Webとリアルの展示手法組み合わせ  
  *図書館(文字情報)のほうが博物館(立体)よりアドバンテージが
   あるかもしれない。

・展示のノウハウの蓄積が必要。
 →展示リストの記録・公開
 →図書館「展示」の理論化 *大学図書館で2000年以降活性化
  ※博物館でもあまり理論化されているわけではない。しかし近年、
  学芸員資格のための科目において、展示について多くのページを
  割いた教科書が出てきている。

そのほか、展示のあり方・方向性について、活発な意見交換がなされた。
終了後は懇親会が催された。