2010年7月30日金曜日

東京文脈の会 活動報告

この会は関西圏の図書館関係者(館種問わず)有志による図書館史の勉強会(読書会)で、2010年3月発足したものです。図書館関係者を中心に細々と活動していますが、あくまで私的な勉強会であり、報告・記載内容は参加者の個人見解にもとづくものです。各人が所属する組織はもとより、以下に掲げる東京文脈の会を除き、その他いかなる団体とも一切関係はありませんので、あらためてここに記載しておきます。

この関西文脈の会は、2009年夏に東京の図書館関係者の私的な勉強会として発足した文脈の会に呼応する形で発足いたしました。その意味で、東京と関西は姉妹団体の関係にあります。
このたび、東京文脈の会事務局の方から、活動内容のご紹介をいただきましたので、図書館史に関連する情報紹介の意味で、その内容を掲載いたします。
東京では『中小レポート』の輪読会を継続的に行っており、今回は第3章以降を扱って議論した、とのことです。

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『中小レポート』輪読会
【日時】 7月29日(木) 19:00~21:00
【報告者】 柳与志夫、小林昌樹
【参加者】 10名

「第3章 図書館資料とその整理」について
  • 「俗悪な出版物」と書いてある箇所は具体的に何か?という疑問に対し、前川氏による山手樹一郎批判があったとの指摘があり、貸本屋批判、公共図書館の貸本屋との棲み分けを指しているのではないかとの指摘があった。
  • これまでの中小レポートの読み方は内在的な読解であり、中小レポートの記述全体を当時の社会状況に置きなおしてみる必要があろう、との意見も出された。
  • 貸本屋研究については、最近ようやく『全国貸本屋新聞』の復刻が出されたが、資料が圧倒的に不足していて、一部の貸本マンガ研究を除くと、まだまだこれから検討課題が多いようである。
  • 亡失対策の部分では、物品会計法規への注目もされているが、法規の解釈の面では疑問がある、との指摘もされた。

「第4章 管理」「第5章 図書館の施設」について

  • 1冊の中で管理について4分の1も記述が当てられているのは画期的で、図書館関係者が触れない組織や法規、広報などの項目が立てられていることは、時代的制約があるとはいえ評価できるのではないか。
  • 「本好き」という職員要件に、愛書家や小説読みではなくて、「情報・知識への関心」を求めている点も評価できる。
  • 統計についても、ルーティンとしてではなく、政策の手段として位置づけられている。

その他、若々しく、全体的なことを考えようとしていることが感じられる一方、収集論についてはちょっと浅いのではないかという意見も出された。

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終了後は懇親会が開かれたそうです。

2010年7月26日月曜日

京都近代史のなかの図書館

事務局2号です。

このほど2刷が出た
丸山宏・伊從勉・高木博志編『みやこの近代』(思文閣出版、初版は2008)に
「日本初の公共図書館」として集書院のことが
また、
「京大図書館の開設」「初代図書館長 島文次郎」と題して
京大図書館や島文次郎、関西文庫協会のことが述べられています。
(いずれも廣庭基介氏の筆によるものです)

京大図書館は、木下総長の構想では一般公開を目指していたらしく
「我が国の如き東京に唯一あるのみ」で不便なので
「京都に之を開設して、我国西部の必要に応ずべし」という
廣庭氏の表現を借りれば「帝国図書館関西館」の構想だった、
と位置づけられています。

また、若手漢詩人のホープで、京都の教養層にも親しまれている
野口寧斎の弟・島文次郎が初代図書館長に着任したことは、
京都の反東京感情を和らげる効果があったという
なかなか興味深い指摘もあります。


なお、思文閣出版が発行している『鴨東通信』no.78には
本書編者の一人である伊從勉氏が
「近代古都の公文書保存と公開」という一文を寄せられています。

「文書保存の管理の能力も歴史都市の格を構成する」

とさらりと書かれていて、(個人的に)思わず唸りました。

2010年7月13日火曜日

第3回勉強会(2010年7月10日)報告

「帰ってきた楠田五郎太:総力戦体制と図書館革新運動」
日時:2010年7月10日(土) 14:00〜16:30
会場:大谷婦人会館 1階 会議室
発表者:米井勝一郎
出席者:9名

今回は番外編として、楠田五郎太(1908~没年不詳)について、楠田についての論考を精力的に発表されている米井氏から本格的な研究報告をいただいた。

楠田は、青年図書館員聯盟の会員であり、昭和期に岡山、兵庫、上海、満州の図書館に勤務し、『動く図書館の研究』(研文館、1935)などの著作がある。米井氏からは、青聯の結成、国民国家と図書館の機能、総力戦体制下の青聯の図書館「革新」の運動、戦後の図書館運動に遺されたもの、等々多彩な論点から楠田の活動評価がなされた。楠田は明治期の図書館界を担った人物のような華やかな学歴を持たないという意味で「周縁化」された図書館員だった。報告では、そうした彼が『動く図書館の研究』などで提言した、図書館の「大衆化」の方向性とは、楠田が満州に向かった後の総力戦体制下の内地でまず萌芽の兆しを見せ、次いで『中小レポート』の「館外奉仕」のなかで再び「帰ってきた」のではないかと、評価された。

さらに、公共圏のゆらぎを伴う現在の図書館の転機のなかで、新たな「革新」を担うのは、正規職員なのか、それとも周縁者として立ち現れた嘱託職員などなのか、そこで三度楠田は帰ってくるのか?という刺激的な問題提起もなされて締めくくられた。
主な議論の要旨は以下のとおり。


  • 青聯が日図協幹部への批判を活発に行っていたとされるが、中田邦造などについてはどのように見ていたのか。
  • 昭和期の青年層の運動として見れば、青聯は宗教の「革新」運動ともかなり類似した構造を持っているように思え、非常に興味深い。たとえば神社研究などでも岡山でこうした運動が知られており、運動の背景には岡山という地域のもつ特殊性があったともいえるかもしれない。
  • 1990年代から唱えられるようになった国民国家論や総力戦体制論は、最近の歴史学では批判も出てきている。その批判に答える形での問題の提示の仕方が必要なのではないか。
  • 楠田は、誰に向けて、誰のための図書館を提示したのか。「国民」や「大衆」、「民衆」など、さまざまな呼び方には概念の違いがある。昭和期に理想とされた「国民」像は、憲法ができる前の明治初期の「国民」像とも当然違うはずだ。彼が主体とする「周縁者」の呼び方と図書館論のプレゼンの仕方の相互連関を抑えて、細かい段階論を設定していくほうがよいのではないか。
  • 楠田は、満州など外地にも渡ったが、そこで暮らす人々は、楠田の図書館論の射程に入ってきているのか。
  • 戦前・戦後を断絶させずに戦後改革の主原因を戦前からの蓄積に見ようとする総力戦体制論を受けて、楠田の戦前の問題提起と戦後の図書館運動の連続性を確認しようという問題意識はわかるが、その間の教育改革(義務教育の延長)は、結果的に利用者層の拡大をもたらしたともいえるわけで、そこを論理的にどう評価していくのか。


議論の終盤に、報告者から、これまで青聯については、三大ツールの完成を称えたり、あるいはファシズムに抗した団体という側面が部分的に評価されてきたが、青聯メンバーの言説を読むと、積極的な国家への参加を説くものがかなり多いという事実がある。そのような青聯の活動を、時代状況のなかに位置づけて読み解くには、批判があるとはいえ、総力戦体制論はかなり有効なツールだと考えているとコメントがなされた。
報告終了後は、懇親会が行われた。

なお、本報告で取り上げられた楠田五郎太については、米井氏の研究のほかに、近年、書物蔵氏による「ゴロウタンは三度死ぬ」金沢文圃閣編刊『文献継承』15(2009.10)所収がある。戦後の図書館史研究のなかで、楠田がなぜ、いかに“忘れられてきたか”を検証したもので、楠田の言説が一度ならず二度までも“帰ってきた”(報告では三度めもあるかもしれない、とも言われた)ことを論証する本報告とは対照的な位置づけともいえる。両者を比較すると、いろいろな論点が浮上しそうであると思われたので、ここにとくに付記しておく。
(文責:長尾)

2010年7月11日日曜日

第4回勉強会のお知らせ

事務局2号です。

本日の研究会にお集まりいただいた方、
また、何よりいろいろ示唆に富むご報告をいただいた米井様、
誠にありがとうございました。
本格的な報告につられて、私も本格的に地が出てしまいました…。
失礼なことも申し上げたかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

さて、9月の勉強会は島文次郎を取り上げる予定でしたが、報告予定者の都合もあり
予定を変更して、青年図書館員聯盟のことをもう少しやりたいと思います。

テキスト

図書館を育てた人々. 日本編 1 / 石井敦. -- 日本図書館協会, 1983.6
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000001644230/jpn
http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BN01584842

から、「間宮不二雄」(もり・きよし著)を取り上げます。
報告は、私事務局2号が担当いたします。



日時:9月11日(土) 14:00~
会場:キャンパスプラザ京都 和室(仮予約済)
※7月21日、会場を仮押さえしました。
※7月31日、会場のお金を支払いました。確定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

2010年7月9日金曜日

北海道の図書館史

事務局2号です。

私自身、書店に取り寄せを頼んだばかりで、
まだ手元に届いていないのですが、こんな本が出ました。

藤島隆『貸本屋独立社とその系譜』(北海道出版企画、2010.6)


著者は、『北海道図書館史新聞資料集成』などの編著もある藤島隆氏です。
既発表原稿をリライトする形で一冊にまとめられたようですが、
貸本屋のほか、北海道の図書館、青年団と図書館の活動など
かなり具体的な資料をもとに説明されています。

非常に興味深いのは、北方文化を作る基盤として
郷土資料を集める動きなどが位置づけられている点です。
地方文化史のなかの図書館、というテーマについて
じっくり読んで考えたいと思います。



…と、思ったら、書物蔵さんのブログにて
とっくに紹介されていた文献でした。畏るべし。