2010年11月18日木曜日

第5回勉強会(2010年11月13日)報告

『図書館を育てた人々 日本編I』を読む(4)
廣庭基介「関西文庫協会の創始者:島文次郎」

日時:2010年11月13日(土) 14:00〜16:30
会場:京都商工会議所
発表者:江上敏哲(国際日本文化研究センター)
出席者:12名

京都大学初代附属図書館長だった島文次郎について、江上氏から詳細な文献紹介とともに報告をいただいた。島については廣庭基介氏が詳細な研究を行っており、これと『京都大学附属図書館六十年史』(京都大学附属図書館、1961)が島の事績を尽くしているとも指摘された。また、大学院を出たばかりの島を抜擢し図書館経営にあたらせた総長・木下広次についても興味深い紹介がなされた。報告はさらに一般公開を目指した島の軌跡、関西文庫協会の活動報告等にも及んだ。

主な質問・議論の要旨は以下のとおり。
  • まず、島の史料について質疑があり、報告者から研究の上では廣庭氏が大きな位置を占めている。氏は三代にわたって京大の事務員をされてきた方で、あらゆる史料を把握していると指摘があった。また京都大学文書館に木下の史料も残っていることが紹介された。
  • なぜ島だったのか、という疑問は残るが、帝国大学の卒業生のステータスが相当に高かった時代のことでもあり、極端に異例の人事とまではいえないかもしれない(この点については、議論のなかで、漢学の素養のある家系に生まれ、英文学を修めるというコースをたどった彼は、和漢書・洋書とも理解できる彼が嘱望された、という可能性が示唆された)
  • 法科と島との対立していた時期があるのが興味深い。関西文庫協会の活動にも影響を与えているし、商議会で島が提案した議題は、島が退任してからすんなり通っているという事実もあるようだ。
  • おそらく、島という人の功績は「古典籍」の保存にあったのではないか。年表を見てもかなりの頻度で文書調査に出かけている。
  • 法科の批判にさらされながら奮闘する島の姿には、デジタル化の推進が唱えられるなかで、古典籍の保存をどうしていくかという今日的な課題を考えるうえでも学ぶべきものがありそうだ(さらに、京大図書館に多く残っている「古文書謄写」とも関係がありそうだとの指摘あり)。
  • 島の一般公開に賭けた情熱と周囲の期待については、まだ府立が開館していなかったという背景も踏まえて評価して行く必要があろう。特別閲覧証の交付条件が非常に面白い。戦後の図書館の理想像からみると「一般公開」には程遠いかもしれないが、かなりの数の人が交付されていたようなので、当時としては画期的で、成功したとさえいえるのではないか。

今回は会始まって以来の最多の参加者を迎え、活発な議論が展開された。

終了後は懇親会が行われた。

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