2011年2月6日日曜日

第6回勉強会(2011年2月5日)報告

「マクロ図書館史」
日時:2011年2月5日(土) 14:00-16:30
会場:京都商工会議所
発表者:谷航
出席者:12名

本発表の資料については、こちら(ぺえぺえ魂:谷さんブログ)に掲載されています。
あわせてご参照ください。

今回は、普段人物に焦点をあてて行なっているテキスト輪読の形式を離れ、資料・施設を切り口に、図書館の歴史を巨視的な視点からとらえる視点を提示いただいた。
はじめに谷氏から、本の未来をめぐる若手パネルディスカッションへの参加経験を踏まえた自己紹介があり、「図書館とは何か、まだ自分自身で一言で答えられないでいる。それは図書館が何なのか自分でよくわかっていないことと同じ」という問題提起が行なわれ、そのために歴史を振り返ってみるという報告の位置付けがなされた。

谷氏が取り上げた主なトピックは以下のとおり。
  • B.C.4000 - 粘土板の登場、その長所と短所
  • B.C.3000 - パピルスの発明、その長所と短所
  • B.C.1780 - 地図の誕生(バビロニア)
  • B.C.1000 - 竹簡、木簡の登場
  • B.C.600-300 - 自国や宗教の権威を高めるための図書館の登場(バビロニア、アレクサンドリア)
  • B.C.100 - コデックス革命(ロール紙に代わるものとして)
  • A.C.50 - 最古の書店(漢代)
  • 770頃 - 日本、最古の印刷物、写字生と写本速度について
  • 1455年 - 活版印刷の登場
  • 1731年 - フィラデルフィア図書館会社 ‐ 私立「公共」図書館の起源?
  • 1848年 - ボストン公共図書館誕生 - アメリカの最古の公共図書館?
  • 20世紀 - タイプライター、マイクロフィルム、電子複写の登場
途中、調べ始めたら楽し過ぎて「キリスト誕生まで辿りつかない」という谷氏の発言(悲鳴?)が、参加者の共感を呼ぶなど、個々のトピックが非常に興味深いものだったため、参加者からは活発な発言が相次いだ。
  • コデックス革命の結果、巻物(ロール)では実現できない検索性、ページ指定、色々なことが可能になったのだと再認識した。
  • 色々な媒体が併用されていたら、媒体による価値の差はあったのか(この点は参加者より、映画レッドクリフを事例にしたフォローあり)
  • 関連書籍を紐解いていくと、同じ時期、違う場所でどういう展開があったのか、古代になればなるほど情報量が少なくてもどかしい思いをする。ヨーロッパの歴史とアジアの歴史がどうつながってくるのか、断片化されたものをどう統合して行ったらよいのか(それを作るのがまさに文脈の仕事なのではないか。というフォローもあった)
  • 図書館でなく書店がコミュニティ機能を果たすという事例は、漢代に起源があるということだが、そういった機能は、郊外型大型書店が主流になる前の日本にはあったのだと思う。そういう意味で本当に色々なことが今変わりつつあると感じる。
  • 海外に行くと、日本語書籍を扱う店は、日本人のコミュニティになっている。日本語が使える場所、という意味で。
  • 公共図書館というとき、クライアントはお客さんなのか、それとも構成員なのか。大学図書館の学生はお客さんか。書籍を共同購入するという形で図書館のコミュニティ形成が始まっているとしたら、どういう位置づけがベストなのか。
  • 図書館が権威の象徴だという側面は、比較的最近になっても変わらない。帝国図書館を作るときに、「文明国には図書館があるもの」といって田中稲城もまったく同じ論理を使っている。
  • マイクロフィルムは何故流行らなかったのか。アメリカの政府刊行物は一時マイクロ化されていた。作成にも閲覧にも機械が必要、ということでは電子書籍と似ているが、作業負荷は電子書籍の方が圧倒的に少ない。そのうちマイクロフィルムが廃れてしまったら、その歴史を知る人もいなくなるので、今誰かがまとめておくというのは、必要なことなのかもしれない。
  • 図書館といったり、書籍館といったり、そのつながりはどうなっているのか。日本の場合、江戸時代まであった文庫と、どういう連続性があるのかは気になる。同じように、「司書」という語もいつから使っているのか気になる。「司書」とは何か、その専門性とはをさかんに議論しながら、いつから使われているかはっきりしないのはもどかしい。
いずれも簡単に答えが出る議論ではないが、多くの問題提起が出る非常に有益な会となった。
終了後は懇親会が行なわれた。

2 件のコメント:

  1. 出席できませんでしたが、このような試みはたいへん重要だと思います。図書館の置かれた状況が大きく変化している現在、”資料”とは何か、”図書館”とは何かといった原理的なことを、あらためて考える必要があると思います。その意味で巨視的に振り返るというのは、きわめて有効な手法だと感じました。なお、図書館の日本的な文脈(蔵書、好古趣味、学問所など)も視野に入れるべきではないでしょうか。G山

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  2. コメントありがとうございました。ご指摘の日本的な文脈については、テキストの輪読で補っていければと思いますが、近世以前に遡る問題群もあるかと思います。こちらは今後の課題だと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

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